世界生物多様性保全戦略:地球の生命を未来につなげる指針

先生、『世界生物多様性保全戦略』について教えてください。

地球環境の専門家
『世界生物多様性保全戦略』とは、1989年から500人以上の専門家が参加した協議や検討を経てまとめられた、生物多様性保全のための世界的な行動指針を示す報告書です。

なるほど。生物多様性の意義と減少要因、保全目標、国際環境政策の確立など、85項目に及ぶ具体的な行動戦略が示されているのですね。

地球環境の専門家
そうです。『世界生物多様性保全戦略』は、生物多様性条約の成立に大きな影響を及ぼし、各国の生物多様性国家戦略の策定にも寄与しました。
世界生物多様性保全戦略とは(概説)
「世界生物多様性保全戦略」(Global Biodiversity Strategy)は、地球規模で生物多様性を保全するための行動指針を示した報告書です。世界資源研究所(WRI)、国際自然保護連合(IUCN)、国連環境計画(UNEP)が共同で取りまとめ、1989年から始まった協議・ワークショップ等に500人以上の専門家が参加して作成されました。
1992年2月にベネズエラのカラカスで開催された第4回世界国立公園会議(IVth World Congress on National Parks and Protected Areas、1992年2月10~21日)に合わせて公表され、生物多様性の意義と減少要因、保全目標、国際環境政策の確立など、85項目の具体的な行動戦略が示されています。同年に採択された生物多様性条約の理念形成にも大きな影響を及ぼし、各国の生物多様性国家戦略の策定推進にも寄与しました。日本では『生物の多様性保全戦略――地球の豊かな生命を未来につなげる行動指針』として1993年に中央法規出版から翻訳出版されています。
世界生物多様性保全戦略とは(多くの関係者が活用するために)

本戦略は、生物多様性の保全と持続可能な開発の促進を目的とし、地球規模で進む生物多様性の喪失に歯止めをかけるため、各国政府、国際機関、NGO、地域社会など多様な主体が連携して取り組むべき方向性を示しています。
戦略では、生物多様性を保全するために以下のような行動領域が定められています。
* 持続可能な資源利用
* 汚染の削減
* 生物多様性の評価とモニタリング
* 普及啓発と教育
本戦略は法的拘束力を持たない指針ですが、各国はこれを参照しながら、自国の状況に応じた施策を展開しています。
生物多様性の意義と減少原因

生物多様性とは、地球上のあらゆる生命の多様さを指す概念であり、生態系の安定性の維持、気候変動の緩和、食料や水資源の供給、伝統的知識の基盤など、人類社会に幅広い生態系サービスを提供しています。さらに、新薬の開発をはじめとする科学的発見や技術革新の源泉でもあり、人々の健康や生活の質を支える基盤となっています。
しかし近年、生物多様性は急速に失われつつあります。その主な要因は、森林破壊、農地開発、生物資源の過剰利用、外来種の侵入、汚染、そして気候変動など多岐にわたります。とりわけ、多様な生物が生息する熱帯雨林の破壊は深刻であり、農地開発も自然の生息地を直接的に縮小させています。気候変動は気温の上昇や降水パターンの変化を通じて、生物の生息域や分布を広範に変化させています。
こうした生物多様性の減少は、生態系の安定性を損ない、気候変動への対応や食料・水資源の供給を困難にするなど社会経済に深刻な影響を及ぼすとともに、医薬品や新素材の発見機会を奪い、人々の健康や生活の質を低下させる要因ともなります。
保全目標と国際環境政策の確立

世界生物多様性保全戦略の重要な柱のひとつが、「保全目標と国際環境政策の確立」です。これは、生物多様性の保全目標を明確に掲げるとともに、その達成を支える国際的な環境政策の枠組みを構築することを目指すものです。
具体的な保全目標としては、生態系・種・遺伝子という三つのレベルにおける多様性の維持、および生物多様性の利用から得られる利益を公正かつ持続可能な形で共有することが挙げられます。
これらを達成する手段としては、国際的な資金援助や技術協力、生物多様性に関する情報の交換と協働の促進が位置づけられています。さらに、生物多様性条約に代表される国際条約や協定の締結を通じて、各国が協調して保全に取り組む体制づくりも重視され、国際協調が強く求められる課題となっています。
生物多様性国家戦略策定の推進

世界生物多様性保全戦略では、各国政府に対し、自国の生物多様性を保全するための国家戦略を策定することが求められています。これは、1992年に採択された生物多様性条約第6条においても、締約国に課せられた義務として明記されています。
日本では、1995年10月31日に最初の「生物多様性国家戦略」が決定され、その後、複数回の改定を経て、現行の「生物多様性国家戦略2023-2030」(2023年3月閣議決定)に至っています。本戦略は、生物多様性を脅かす要因の特定、保全と持続可能な利用を促進する施策、生物多様性に関する情報・知識の共有などを盛り込んだもので、日本における生物多様性政策の中核となる指針として、今後の施策展開の基盤となることが期待されます。
生物多様性条約への影響

世界生物多様性保全戦略は、1992年にリオデジャネイロで開催された地球サミット(国連環境開発会議:UNCED)で採択された生物多様性条約の理念や枠組みの形成に大きな影響を及ぼしました。
生物多様性条約は、生物多様性の保全、その構成要素の持続可能な利用、および遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分を目的とする国際条約であり、生物多様性の保全、持続可能な利用、遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)の3つを主要な柱としています。
世界生物多様性保全戦略は、こうした条約の理念に先立って体系化された包括的な行動計画であり、条約の実施を支える具体的な指針と、生物多様性に関する情報や知識を国際的に共有するためのメカニズムづくりに寄与しました。生物多様性を保全し、持続可能な利用を確保して次世代に継承するための重要な国際的枠組みとして、今なお条約の実施を支え続けています。


