バンカー油とは何か?

先生、バンカー油について教えてください。

地球環境の専門家
バンカー油とは、船舶で使われる燃料油の総称です。外航船を中心に、内航船(沿岸を航行する船)でも使用され、重油系の燃料が中心となります。

バンカー油は、なぜ「バンカー」と呼ばれるのですか?

地球環境の専門家
「バンカー」とは、かつて船舶に石炭を貯蔵していた区画(燃料庫)のことです。その名残で、船舶用の燃料油全般を「バンカー油(bunker oil)」と呼ぶようになりました。
バンカー油とは。(概略)
「バンカー油」とは、船舶で使用される燃料油の総称で、その語源は船舶の燃料庫を意味する「バンカー」に由来します。主に原油精製の残渣を主成分とする重油であり、船舶のエンジンやボイラーの稼働に用いられます。燃焼時に硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)などの大気汚染物質を排出するため、環境への影響が国際的な課題となっています。
バンカー油とは?(より詳細に解説)

バンカー油は、船舶のエンジンやボイラーを動かすために使用される燃料油の総称です。粘度や硫黄分の高い重油系燃料を中心に、比較的軽質で硫黄分の低い軽油系燃料(舶用軽油)などがあり、重質なものほど硫黄分が多く、環境への影響が大きくなる傾向があります。
世界の海上輸送量は年々増加しており、それに伴いバンカー油の使用量も増加傾向にあります。燃焼時には二酸化炭素(CO₂)や硫黄酸化物(SOx)などが排出され、大気汚染や気候変動の要因となるため、環境保全の観点から、その使用量や排出物を抑制することが重要な課題となっています。
バンカー油の種類

バンカー油は、大きく分けて以下の2種類に分類されます。
- 重油系燃料(HFO:Heavy Fuel Oil など):石油精製で得られる最も重質な製品で、船舶の主燃料として広く使用されています。硫黄分などの不純物を多く含み、環境への影響が懸念されています。近年は、硫黄分を抑えた低硫黄重油(VLSFO)も普及しています。
- 軽油系燃料(MGO:Marine Gas Oil など):重油系よりも軽質で、燃焼時の排出物が比較的少ない燃料です。舶用軽油(MGO)や舶用ディーゼル油(MDO)が含まれ、価格は重油系より高いものの、環境規制への対応として使用が拡大しています。
なお、硫黄酸化物や粒子状物質の排出が少ない液化天然ガス(LNG)も船舶燃料として利用が広がっています。これも化石燃料の一種ではあるのですが、バンカー油の「代替燃料」に位置づけられます(詳しくは後述)。
バンカー油の使用と環境への影響

特に重油系のバンカー油は、原油精製で残った残渣分を主成分とし、硫黄分や金属分などの不純物を多く含んでいます。船舶の運航に不可欠な燃料である一方、その環境負荷の大きさが問題視されています。
燃焼によって排出される硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)などの有害物質は、大気汚染や酸性雨、健康被害の原因となります。また、同時に排出される二酸化炭素(CO₂)は、地球温暖化をはじめとする気候変動の主要な原因となっています。
また、バンカー油には多環芳香族炭化水素(PAH)などの有害な有機化学物質や、バナジウム・ニッケルといった重金属も含まれており、漏洩事故が発生すれば深刻な海洋汚染を引き起こします。これらは海洋生物に悪影響を及ぼし、長期にわたって海洋生態系を脅かすおそれがあります。
こうした環境影響を軽減するため、硫黄含有量の規制やスクラバー(排ガス浄化装置)の船舶への搭載など、さまざまな対策が講じられています。しかし、これらだけでは十分とは言えず、さらなる取り組みが求められています。
バンカー油の規制

環境への影響を抑えるため、バンカー油の使用には国際的な規制が設けられています。代表的なものが、国際海事機関(IMO)が定めた「MARPOL条約(海洋汚染防止条約)」です。MARPOL条約附属書Ⅵでは、2020年1月1日以降、一般海域における船舶燃料の硫黄分含有量を0.5%以下とすることが義務付けられています(いわゆる「SOx規制2020」)。さらに、バルト海・北海や北米沿岸などに設定された排出規制海域(ECA/SECA)では、より厳しい0.1%以下の上限が適用されています。加えて、地中海も新たにECAに指定され、2025年5月1日以降は硫黄分0.1%規制の対象となっています。
また、北極海では環境保護の観点から、重油(HFO)の使用および運搬を段階的に禁止する措置がIMOで採択され、2024年7月以降、適用が順次進められています。
これらの規制により、バンカー油による環境への影響は一定程度軽減されつつあります。しかし、温室効果ガス排出などの課題は依然として残っており、今後もさらなる規制強化が進むと見られています。
バンカー油の代替燃料

重油や軽油を中心とする従来のバンカー油は環境負荷が大きいことから、近年はより環境負荷の小さい代替燃料への関心が高まっています。
主に期待されている代替燃料は以下のとおりです。
- バイオ燃料:植物や動物由来の油脂などを原料とした燃料で、ライフサイクル全体での二酸化炭素排出量を削減でき、環境負荷の軽減が期待されます。
- 液化天然ガス(LNG):重油や軽油に比べて二酸化炭素や硫黄酸化物の排出量が少なく、すでに一部の船舶で実用化が進んでいます。
- 水素・アンモニア:燃焼時に二酸化炭素を排出しないため、脱炭素化に向けた有力な燃料とされています。ただし、アンモニアは燃焼時に窒素酸化物(NOx)や一酸化二窒素(N₂O、強力な温室効果ガス)を、水素はNOxを生じ得るため、これらの排出対策が必要です。また、貯蔵・輸送のインフラ整備やコストにも課題が残っています。
これらの代替燃料はいずれもバンカー油より環境負荷が小さい一方で、コストや供給インフラなどの課題を抱えています。今後、こうした課題を克服することで、船舶燃料の脱炭素化とバンカー油の代替が進むことが期待されています。


