SBTイニシアチブとは?

SBTイニシアチブの詳細について教えてください。

地球環境の専門家
企業の温室効果ガス削減目標が科学的根拠と整合しているかを検証・認定する、2015年発足の国際的な枠組みです。

SBTイニシアチブの目的は何ですか?

地球環境の専門家
企業がパリ協定と整合する削減目標を設定・実行できるよう促し、世界全体の脱炭素化を加速させることです。
SBTイニシアチブとは。
環境分野の用語「SBTイニシアチブ」(SBTi:Science Based Targets initiative)は、企業に対して科学的根拠に基づく温室効果ガス(GHG)排出量削減目標の設定を求める国際的な取り組みです。SBTは「Science Based Targets(科学的根拠に基づく目標)」の略称で、2015年にCDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)、国連グローバル・コンパクト(UNGC)の4団体によって共同で設立されました。
SBTイニシアチブの概要

- 企業や金融機関などの組織が、科学的知見と整合した温室効果ガス排出削減目標を設定できるよう、基準・方法論・ガイダンスを整備すること
- 提出された目標を審査・認定し、透明性と説明責任を確保すること
目標の検証(英語では「validation」、日本語では慣例的に「認定」と呼ばれます)は、本体の完全子会社であるSBTi Servicesが担当しています。基準策定を行う本体と検証機能を分離することで、審査の中立性を確保しています。SBTi本体は2023年に英国で法人化し、チャリティ登録を受けています。設立母体である4団体と連携しながらも、独立した組織として運営されています。
科学的根拠として参照されているのは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書です。かつては「産業革命前と比べて、平均気温の上昇が2℃を十分に下回る水準」への整合でも認定されていましたが、2022年7月15日以降に提出される目標については、事業会社の短期目標のうち
- スコープ1(自社が直接排出する温室効果ガス)
- スコープ2(購入したエネルギーに伴う温室効果ガス)
で1.5℃目標(産業革命前と比べて、平均気温の上昇を1.5℃以内に抑える)への整合が必須となりました。
- スコープ3(それ以外のバリューチェーン全体が排出する温室効果ガス)
についても、最低限「平均気温の上昇が2℃を十分に下回る水準」との整合が求められます。同日より前に認定された目標は見直し時期まで有効とされ、金融機関には温度スコア法を用いる場合の例外も残っていますが、現在では1.5℃目標への整合が事実上の標準となっています。
SBTの認定を取得した企業数は、2021年に1,000社を突破しました。2025年の1年間だけでも2,800社以上が新たに加わり、2026年1月には累計で1万社に到達しています。コミットメント(目標設定の表明)段階の企業を含めると、2026年1月時点で世界全体で1万3千社規模に達しており、パリ協定に整合した目標設定のグローバルスタンダードとして定着しています。
SBTイニシアチブ設立時の時代背景

SBTイニシアチブの設立から間もない2015年12月、フランス・パリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において、パリ協定が採択されました。当時、科学的知見に基づく気候変動対策を加速させる必要性が世界的に高まっていました。
パリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて2℃を十分に下回る水準に抑え、可能な限り1.5℃に抑えるという長期目標が、196の締約国・地域の合意として掲げられました。この目標の実現には、排出の大半を占める企業活動の変革が欠かせません。
SBTイニシアチブは、こうした企業変革を後押しする民間主導の仕組みとして始動し、パリ協定や持続可能な開発目標(SDGs)の達成に密接に関わる取り組みとして位置づけられています。
SBTイニシアチブの目標

パリ協定の達成に向けて掲げられている到達点は、世界全体の温室効果ガス排出量を2030年までに大幅に削減し、遅くとも2050年までに実質ゼロ(ネットゼロ)にすることです。より早期の脱炭素化が科学的に求められるセクターでは、セクター別基準で定められた年限への整合が必要とされ、たとえば電力セクターでは2040年が目安とされています。
この目標達成に向けた企業向け目標設定フレームワークでは、排出量の算定において国際標準であるGHGプロトコルへの準拠を求めています。そのうえで、「自社の直接排出(スコープ1)」「購入したエネルギー(スコープ2)」「バリューチェーン全体(スコープ3)」それぞれでの目標設定の範囲、削減経路の算定方法、進捗の報告方法などを定めています。
2021年10月には、企業向けとして世界初のネットゼロ基準「SBTi企業ネットゼロ基準(Corporate Net-Zero Standard)」が公表されました。その後も改訂が重ねられ、2026年6月11日には大幅に改訂されたバージョン2.0が公表されています。適用は段階的に進められ、2026年中の検証はバージョン1.3.1に基づいて行われ、2027年第1四半期から2028年1月31日までは1.3.1と2.0のいずれかを選択でき、2028年2月1日以降は新規提出目標のすべてが2.0準拠となる予定です。バージョン2.0では、企業の規模や排出量に応じた区分の導入、スコープ1と2の目標の分離、移行計画(トランジションプラン)や第三者保証の要件強化などが盛り込まれ、「目標設定」から「実行と進捗の証明」へと重点が移っています。
SBTイニシアチブのメリット

第一のメリットは、企業の透明性と信頼性の向上です。独立した審査を経た目標を公表することは、サプライヤー、顧客、投資家からの信頼獲得につながります。
第二に、イノベーションの促進が挙げられます。野心的な目標を達成するには、省エネ・再エネへの転換、低炭素製品の開発、サプライチェーンの見直しなど、新技術やビジネスモデルの導入が不可欠であり、それが中長期的な競争力強化にもつながります。
第三に、持続可能な成長への貢献です。規制強化やESG投資の拡大が進むなかで、科学的根拠に基づく削減目標は長期的な事業継続の基盤となります。
参加企業数は年々増加しており、日本は国別の認定取得企業数で世界第1位となっています(2026年1月時点で約2,000社。2位以下は英国、米国、中国と続きます)。
SBTイニシアチブへの参加方法

参加はまず、SBTi Servicesの検証ポータル(Validation Portal)でアカウントを登録することから始まります。基本情報を提出すると、目標設定の対象となるかどうか、また「大企業(コーポレート)」「金融機関」「中小企業(SME)」のいずれに区分されるかが確認されます。この区分によって、適用される基準や手続きが異なります。
次のステップは、コミットメントレターを提出して参加を表明することです。ただしこれは任意の手続きであり、準備が整った大企業・金融機関はこの段階を省略して直接検証に進むこともできます(なお、中小企業はコミットメントの対象外です)。コミットメントレターを提出した場合は、コミットメント遵守ポリシーに基づき、原則24か月以内に正式な目標を提出する必要があります。期限を過ぎると、目標ダッシュボード上に「コミットメント削除(Commitment Removed)」と表示されます。
目標を作成する段階では、ガイダンスやツールを活用して組織の温室効果ガス排出量(「自社が直接排出する分」「購入したエネルギーによるもの」「それ以外のバリューチェーン全体」のそれぞれを考慮)を算定したうえで、1.5℃目標と整合した削減目標を設定します。提出された目標は検証チームによる審査を受け、基準を満たせばSBTとして正式に認定(検証)されます。
認定を受けると、目標ダッシュボード上に組織名、削減目標、進捗状況が公開されます。認定組織は、コミュニケーションガイドラインに従うことで、SBTiのロゴを対外的な発信や開示に使用できるようになります(コミットメント段階では使用できません)。
なお、認定された目標は最新の科学的知見との整合を保つため、「必須5年レビュー(Mandatory Five-Year Review)」による定期的な見直しが義務づけられています。起算日(トリガー日)は、初回の検証日または直近の全面更新日から5年後の月末となり、そこから12か月以内にレビューを完了する必要があります。このうち最初の6か月以内にレビュー結果を提出し、更新が必要と判断された場合は、残りの期間内に修正した目標を再検証のため提出します。


